更なる思い

渡辺瑞也(福島小高赤坂病院 医師)
2023年9月12日 )

 このたび山田國廣先生は、「これまで唱えられてきた放射能による健康影響学において無視されてきた『テルルの化学的放射能的毒性』こそが実は重要な要因であり、場合によっては主因となり得るほどのウエイトを有するものである」という研究結果を発表された。更に、東京電力福島第一原発過酷事故においてはこのテルル化合物を含むプルームが継時的に計9本ものルートを辿って東日本に拡散したことを示された。

 これまで私達福島原発事故被ばく者は、IAEAやICRP等の国際機関や日本政府、福島県が主張する「福島原発事故放射線に起因する健康被害は生じない」という無害論に対して様々な角度から批判してきた。それは、被ばく量の見積もりや内部被ばくの評定をめぐっての言わば「セシウムを中心とした放射能毒による健康被害」という土俵上での論争であった。

 しかし、山田國廣先生の主張はこれとは全く次元の異なる新たなパラダイムへのシフトである。

 事故後の比較的早期に問題となった鼻出血の問題は先生の主張を完全に裏付けるものであり、鼻出血の存在そのものを否定しなければ説明できなかった放射線医学専門家達の過ちをものの見事にあぶりだしている。

 山田國廣先生が提起した「テルル化合物による化学的放射能的毒性に因る健康被害」という新たな領域は、今後大きな科学論争を惹起することと思われるが、現に様々な健康障害に見舞われている私達福島原発事故被ばく被害者にとってはこの上ない極めて大きな学問的バックボーンを与えて頂いたものと思う。

 即ち、原発事故後直ちに起きた健康異変から事故後12年余の今日までの間に生じたあまたの健康異変が、テルル毒によるものである可能性が大きい、という山田國廣先生の研究は,私達の訴えを支持する確かな学問的基盤になるものであると思う。

以下は、私が公表してきたいくつかの著作物を挙げたものです。ご参照願えれば幸いです。
①著書:核惨事(批評社、2017

既発表論述文
(ⅰ)放射線被曝症候群という概念の提案、 
(被曝・診療 月報第42号、ふくしま共同診療所医師連絡会 2020年12月)          (ⅱ)福島原発事故由来の放射性物質による健康被害-その存在を否定する ことはできない、(被曝・診療 月報第55号、ふくしま共同診療所 医師連絡会 2023年4月)
(ⅲ)放射線被曝問題をめぐるバイアス
   (福島県医師会報第83巻8号、2021年8月)

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