福島原発事故から12年

藤原 寿和(千葉県放射性廃棄物を考える住民連絡会事務局長)

■はじめに

東京電力福島第一原発事故で発生した放射能汚染被ばくによる公害被害)

  前例のない未曾有の原発災害をもたらした東京電力福島第一原子力発電所爆発事故から12年目を迎えました。福島被災現地では、ハードな復旧・復興事業のほとんどが完成していますが、人や地域の絆は依然として取り戻せていません。いまだ数万人余の人たちが、生まれ育ち生活していた土地に戻れず、避難生活を余儀なくされています。

 にもかかわらず、岸田政権は、昨年末に示した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針案」において、まるで原発事故など起きなかったかのように、気候危機対策に便乗した原発再稼働、40年寿命を大幅に超える60年稼働、さらには新規原子炉の建設などに大きく舵を切りつつあります。
 この方針の中にある再稼働の対象として、茨城県にある「東海第二原発」が具体的な再稼働の対象として指名されました。このような政府の原発方針を忖度するように、東京電力の旧経営陣3人が業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴された裁判で、東京高等裁判所は「巨大津波の襲来を予測することはできず、事故を回避するために原発の運転を停止するほどの義務があったとはいえない」として、1審に続いて3人全員に無罪を言い渡しました。また、政府は今年中に、漁業者からの合意がないまま汚染水の海中放流を強行しようとしています。

 しかし、2011年3月11日に発令された「原子力緊急事態宣言」はいまだに解除されていません。事故を起こした原子炉サイトからは依然として高レベルの放射性物質が大気や海洋に流出し続けており、事故収束作業も廃炉工程も大幅な見直しが避けられない状況です。

■地震と活火山噴火
 また、この数年、日本各地でマグニチュード4以上の地震が多発しており、高い確率で南海地震・東南海地震の発生や、富士山をはじめとする活火山の噴火予測がされています。もし、東日本大震災クラスの大地震が発生すれば、原発だけでなく、核燃料貯蔵施設や、使用済み核燃料再処理施設等への破滅的な影響が避けられません。

■放射能による小児甲状腺がん、健康被害が多発

 そして、原発の爆発事故によって放出された放射能による汚染の影響で、事故後の10数年間で子どもたちの甲状腺(小児甲状腺がん)がんが300人を超えて発生し、さらに増え続けています。小児甲状腺がんを患った6人の若者たちが提訴した損害賠償請求訴訟は1年を過ぎました。
 小児甲状腺がんの多発以外にも、東北関東地域では放射線障害が原因と思われる様々な健康被害の発生がみられます。小児甲状腺がんに罹患して提訴に及んだ6人の原告(のちに1名加わって7名となる)をはじめとする多くの放射能汚染被害者の救済と、やむなく故郷を後にして避難せざるを得なかった多くの被害者に対する賠償は、当たり前のこととして認められなければなりません。

 政府は汚染水の海洋放出の外に、福島県で発生した放射能汚染土を全国の公共事業で再生利用する道を開くため、環境省の関連施設がある埼玉県所沢市、東京都新宿区、そして茨城県つくば市で「実証事業」と称し、汚染土の埋立事業を行おうとしています。放射性廃棄物処分の目処がまったく立っていないうえに、世界でも類のない地震大国の日本で、原発の再稼働や新増設を行なうなど、無謀以外の何ものでもありません。あらためて言うまでもなく、核と人類は共存できません。

 私たちは、12年前に起きた原発事故由来の放射能汚染によって、小児甲状腺がん等による健康被害だけでなく、福島をはじめ東北関東地域の広範囲で様々な種類のがんや心臓疾患など、多くの健康被害が生じているという現実を明らかにし、 二度と原発事故を起こすことのない、「安心・安全」な社会を構築する必要があります。

 放射能汚染は、環境基本法が定める「公害」です。そのため、国の公害等調整委員会に対して調停・裁定を求めると同時に、今は無理やり「一切ない」ことにされている「被ばく健康被害」の顕在化を目指し、「福島原発事故放射能汚染公害被害原因裁定を求める会」の立ち上げを呼びかけたいと思います。

■原発事故由来放射能汚染公害被害を否定する原発推進派にノーを!

  2011年に発生した福島第一原発事故。それによって環境に漏れ出した多量の放射能により被ばくを強いられた人は、100万人から1000万人の規模で存在すると思われます。そんな人たちの中には、「被ばく」した以降、健康面での異常や不安を訴えている方も多数おられます。

 繰り返しになりますが、原発事故がもたらした被ばくによる健康被害は「一切ない」ことにされています。東電の刑事責任を問う強制起訴裁判でも、また東電に対する多数の損害賠償請求裁判でも、「住民被曝被害」についての責任は問われていません。しかし、福島原発事故後に国が行なっている福島県民健康調査結果では、事故当時、福島県内に居住していた18歳以下の子どもたちの間で発生した甲状腺がんは338人にものぼります。この事実に対して、検討委員会は一貫して「スクリーニング効果」や「過剰診断論」を理由として、「放射線による影響はない」と否定し続けています。

 しかし2022年1月27日、事故発生時に未成年だった福島県在住の男女7人が東京電力を相手取り、「311子ども甲状腺がん裁判」を提訴しました。
 小児甲状腺がんは、通常100万人に年間1~2人といわれる極めて珍しい病気で、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故後、被曝した子どもたちや大人たちの間で急増したことが明らかになっています。福島県でも小児だった若者に限らず、多くの成人の間でも、甲状腺がんをはじめとした病気が高い頻度で発生していることが、全国がん登録等のデータで明らかになっています。

 私たちは、原発事故と罹患の因果関係を明らかにし、放射能汚染によると思われる公害健康被害については、その発生責任と被害に対する救済措置を講じさせるために、公害紛争処理法による公害等調整委員会への原因と責任を求める請求の申し立てを行なうことを計画しています。

■公害等調整委員会への原因裁定を求める申し立てにご支援を!

 公害等調整委員会(以下「公調委」と略)では、申し立てを通じ賠償請求もできます。また、国費による実態調査も行なわれます。「被ばく公害」による健康被害として、白血病や小児甲状腺がんといった「がん」ばかりでなく、放射線で目の水晶体が侵される白内障をはじめ、被ばくの初期症状とされる脱毛や鼻血出血、金属臭味覚、疲労感などは、原発から放出された大量の汚染物質のうち、化学毒性と放射能毒性を併せ持つ「テルル」による典型的な症状であることや、過去の原爆実験や核災害、チェルノブイリや福島での原発事故による初期被ばく症状の典型例であることが、内外の文献等から明らかになっています(山田國廣著『核分裂・毒物テルルの発見 原爆/核実験/原発被害者たちの証言から』藤原書店、2023年2月25日刊)。

  私たちは一昨年から、公害等調整委員会への申し立てを進めるため、福島県内の被害(被ばく)者に申立人になっていただくことのお願いと、代理人の弁護団の結成、そして申し立てを行なうに際しての理論構築などの作業を行なってきており、年内にも公調委への申し立てを行なうことになりました。

 そこで、関係各方面の皆様へのお願いです、ぜひこの申し立てへのご支援とご協力をお願いしたいと思います。今秋までには、キックオフ集会の開催と申し立て(裁判でいう提訴)を行ないたいと考えています。

 今後、この取り組みを進めるに際しては、活動費、とくに弁護士費用等の資金作りが必要となります。いずれは申し立て後にクラウドファンディングを行なうことを考えていますが、差し当たり、弁護団への着手金や準備資金などの捻出のため、ぜひ、暖かいカンパを寄せていただきますよう、よろしくお願いします。➡皆様へのカンパのお願い

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